介護ヘルパー国家賠償請求訴訟審理打ち切りに呆然(1612)

8月23日は火曜日で、介護の仕事があったが事前に休みを申請して午後2時半から東京地方裁判所で開かれた「ホームヘルパー国家賠償請求訴訟」の公判を傍聴しに出かけた。昨年9月に原告側が当時の裁判官3人を忌避したことで、長く閉廷していたが忌避自体は却下され、6月に裁判官の異動に伴い新しく裁判官が変わったためこの日に再開された。

この裁判は、訪問介護をしているホームヘルパーの藤原るかさん、伊藤みどりさん、佐藤昌子さんの3人が、就労時間が保障されず、移動や待機、キャンセルに要する時間が労働と認められているにもかかわらず、多くに事業所が労働時間として賃金を支払っていないのは、労働基準法違反であり、国がその違法状態を放置しているために原告らに賃金が支払われていない。そればかりか、介護労働者としての尊厳が傷つけられ精神的損害をこうむったとして、それぞれに300万円の損害賠償を求めているものだ。

私はご存知の通り、2年前の7月に母親の初盆を機に3年間、つまりあと1年介護を実践している。この辺のことは既に何度か書いた。もし介護の仕事をしていなければ、全く興味がなかった分野だ。誰しも自分と関係のない世界に関心を持たないだろうし、私も母を失わなければ、「大変なんだろうな」と友人たちの家族の介護の話を聞いて、何となく思った程度で、正直心底理解していたわけではない。

                                                                            <  山本志都弁護士 >

と言うのも介護に取り組んで20年以上になるわが杵築の伝説の才媛N井はるみちゃんに、記者時代に会ったときは、頓珍漢な質問ばかりして辟易された。知らないのだからしょうがないのだが、その後も担当することがなかったから門外漢のままだった。この2年、介護の疑問に答えてもらったり、改めて話を聞くことが多くなって、それまでの無知の涙を笑い合っている。

実際に働いてみると、その労働のキツさは想像以上で、仕事の内容も、私に言わせれば「糞尿処理にはじまって、糞尿処理に終わるのが介護」である。それ以上にその低賃金の酷さは、私の友人、知人たちから見れば「想像を絶する」金額である。おそらく時給1000円ちょっとだ。そうした経験を踏まえてこの裁判の傍聴に臨むと、まさに彼女たちの訴えは正鵠を射ているのだ。

<左から原告の佐藤さん、藤原さん、伊藤さん>      <大棒洋佑弁護士>

彼女たちの訴えの中で提示された賃金は、<正規雇用のヘルパーでも平均月収は約17万円。登録ヘルパーにいたっては約8万円弱。これでは生活していけません!> しかも<勤務時間の4割は移動時、待機時間、キャンセル時間。しかもその時間は「無休」!拘束時間を考えると”最低賃金” 割れしています>という。こうした現状に対して国は何をしているのか。

<事業者に「訪問介護労働者の移動時間等の取り扱いについて」という通知を出しました。しかし、訪問介護を中心に事業者の倒産は増加の一途。事業者は、今の介護報酬でそれを払えません!>として、責任は国にあると訴えている。彼女たち3人と弁護団、それに実践女子大学の山根済純佳准教授は、昨年7月ホームヘルパー683人の声をまとめた『ホームヘルパー実態調査アンケート報告書』を作成して、その実情を訴えてきた。

この裁判の重要性は、傍聴に行くたびに感じてきたのだが、ひどい訴訟指揮の裁判長、傲岸不遜な検察側、まさに「法匪」然とした態度に呆れ返るばかりだった。今回も新しく変わった裁判長は、3人の意見陳述を述べさせると、「それでは判決は11月1日午後1時15分から言い渡します」と打ち切りを宣告。原告や支援者が一斉に立ち上がって抗議する中、「退去命令を発します」と言うや、あらかじめ外で待ち構えていた裁判所の衛士が続々なだれ込んできた。何だか50年ぶりぐらいに見た光景だった。改めて日本が三権分立でないことを認識させられた。裁判所=国家権力なのであると。

                <郷土のレジェンド N井はるみちゃん 私の介護の師匠>

メディアは今の所、このことを報じない。判決の時に、これまでも記事にしたことがある東京新聞が取り上げるかもしれない。他の新聞、テレビは一切関心がないのか、一時期朝日新聞が書いていたこともあるが、現場を取材する記者もデスクも介護に直接関係や経験がない年齢なのだから、リアリティがないのかもしれない。結局介護の業界紙や雑誌が掲載するしか、他の人には伝わらない。それを嘆いても仕方がないが、裁判官も検察官もメディアの人間も、自分が介護の当事者になったときに初めて、介護の重要性を認識かつ体感することになるのだろう。

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