こんなカッコいい言葉は、私ではない。週刊B春編集長のS谷学さんの著書『「週刊B春」編集長の仕事術』の締めの言葉だ。久しぶりに書店を覗いた。このところ地元石堂書店とAmazonで全てこと足りている上、電子本を購入するようになってからは、Kindleストアそれに自炊してドロップボックスに入れてある数千冊の著作を持ち歩いているので、すっかり大型書店と縁がなくなった。とはいえ本を見ないとムズムズするのは性分か。
久しぶりに新横浜の三省堂書店に出かけてみたら、いきなり呼ぶ本がある。私はいつも思うのだが、書店に入ると「おい、お前が読む本はこれだ!!」と声をかけてくる。今日もそうだった。まったくこの本が出ていることを知らなかった。週刊ダイヤモンドを毎週読んでいる割には、本の広告はスルーしているんだな。
実に面白いばかり、若い人、それも記者やディレクターといったマスメディアの関係者はもちろんビジネスマンにもお薦めだろう。特に20代、30代の若い人には十分読む価値がある。というのは、机上の「論」ではなくて、実践に裏づけられたファクトが根底にあるので説得力がある。
私が日頃から言っていることに、「記者にコンプライアンスを求めるのは、八百屋で魚を求めるに等しい」がある。S谷さんは、P187で次のように指摘している。
<スクープを狙う人間ほど他部署に飛ばされ、逆にコンプライアンスばかり重視したり、帳尻合わせで小金を稼ぐのが得意な人間が出世する。そういう状況ではリスクを恐れず、読者が本当に知りたいことに応える報道が出来るとは思えない>
全く同意見である。実はS谷さんは入社直後から知っている。というか私とF木啓孝兄は、五月の連休や夏休みになるとよく自分の彼女を連れて泊まりがけで長野県の木崎湖にキャンプに行っていた。この本の中にも出て来る、S谷さんが<最も影響を受けた一人>のB春の設楽敦生さんの別荘をB藝春秋のK尾聡さんが借りて、奥さんと赤ん坊連れで来ているところに、我々がお邪魔していた。
そこにのちにS谷夫人となるM代ちゃんという能勢慶子さん似の可愛い女の子らB春女性陣が参加していて、つまりS谷さんより我々の方が先に仲良し、といっても我々も彼女連れだから、いっしょに魚釣りをしたりカヌーに乗ったりする程度だが、とにかく一歩先んじていた。だから二人が結婚したあとも、「M代ちゃんの旦那」と呼んでいた。「Sちゃん」「S谷さん」と彼の本名で呼ぶようになったのは、編集長になってからだ。それに私は彼のもう1〜2世代前の編集者と仲が良かったから、好感は持っていたが余り縁はなかった。
彼については、その下で働く人たちから「兄貴」と慕われていることは、よく耳にした。直接呑んでる席で、それもK談社の編集者達の席にもかかわらず、「週刊B春のS谷さんは、男の中の男や、ホンマの兄貴分や」と叫ぶのを聞いたことがある。するとそこにいた人たちも「そうやそうや」と言っていたので、二度びっくりしたことがある。本当に下から信頼の篤いデスクなのだろうと思った。
確かにこの本の中でも<メンタルを病んで休んだ部員は一人もいない>と書いてあるが、いつも部員の声に耳を傾ける姿勢を忘れないという点は、全国のマスメディアのキャップやデスク、いやいや管理職は大いに参考にすべきだ。
この本は、極めて当たり前のようなことだが、なかなか実行できにくいことも書かれている。<女も男も愛嬌が肝心><沈黙は大切だ><いることに意味がある>など、私もこの本を30年前に読んでいれば、失敗ばかりせず、ダメな記者で終わらずに済んだかも知れない。