19日日曜日は、昼過ぎから友人と奥さんの3人が来訪、今半のすき焼きをつつき、三崎の中トロに舌鼓を打ちながら6人で夜9時半過ぎまで、喰っては飲み、飲んでは喰いを繰り返した。いやいや娘は再来週から学年末試験があるというので、2時間ほど付き合ったが2階の自室に消えた。「有朋自遠方来 不亦楽(朋有り遠方より来たる。また楽しからずや)」まさにその通りで話が尽きない半日だった。
「定年のお祝いに何か欲しいものはある?」と家人に聞かれてもすぐには思い尽かない。65年も生きているともう欲しいものは、ない。というか必要なものは持っているし、「欲望」自体枯れてきている。3月の卒業式と退職辞令交付のときにスーツを着ていく以外は、もうブレザーとパンツとスニーカーでいい。ちょうどPAPASから春夏のカタログが届いたけれど、目がいくのはカジュアルなものばかり。まぁ元々カジュアル中心のメーカーだけど。
定年前に気づいたのだが、大学というのは中々気が利いたところだった。電子機器類から音響製品まで、「教育」に繋がるものは、全て研究費で買って貸与してくれる。つまり今使っている自分のマック以外は、周りのものは当然のことながら返却しなければならない。そうしてみると当面iPadが必要だな・・・と考えていたら、カメラもビデオも返えさなくてはいけないことに気づいた。最近はスマートフォンが便利で、iPhone6sで随分綺麗な写真や動画も撮れるから、借りたもののロッカーに入ったままだ。
「カメラ」の文字が頭をよぎった時点で、昔のカメラ小僧の仄かな残り火が私の記憶を燃え上がらせた。「そうだ デジタルカメラ オリンパスPEN-F」とすぐにグーグルで叩いてみる。発売直後に当時は定期購読していた『アサヒカメラ』の広告で見たあのオリンパスPEN-Fだ。とにかくオリンパスファンである。
中学2年生の時に、生まれて初めて買ってもらったのがオリンパスPEN-D3だった。同じ時期PEN-Fが出ていて、そちらの方が欲しかったのだが、カメラ狂のおじさんが「これがいいだろう」と勧めたので、何も知らないオヤジは、D3にしてしまった。その後PEN-Fを持っている人を見ると、「あのときなぁ〜」と悔しがったものだが、後年カメラの達人たちと知り合って、D3が優れものであることを何人からも言われて、カメラ狂の叔父を見直した。もちろん、40歳を前に浅草の早田カメラで「PEN-F」も「PEN-FT」も手に入れたが、それが欲しいときの年齢があるものだ。
もう20年近く前のことだ。作家のH谷鏡子さんと飲んでいて、たまたまバッグにライカのM3を持っていたことから、カメラの話になった。カメラ小僧だった時代の話やオリンパスが「M-1」という機種を発売したら、ライカからクレームが来て、「OM-1」に急遽名称を変更したんで、たしか3ヶ月くらいしか発売されていない幻のカメラなんだと一人盛り上がっていると、突然「持ってる、持ってる、それ」と言い出した。「何 !! オリンパスM-1を?OM-1じゃないよ」「M-1よ。私、丸亀高校の野球部マネージャーの時にカメラ買ってもらったけど、その後それ全然使ってないわ。押し入れには入っているから上げるわ」といとも簡単におっしゃる。
待て!こういうのは、時間が空いたら忘れる話だ。「そうだ 行こう 目黒」とタクシーに乗って彼女のマンションに。ビールを飲みながら待っていると押し入れの中をもぞもぞやっていた彼女が、「あった あった」と綺麗な箱入りの「オリンパスM-1」を畳の上に押し出した。「いいの、本当にいいの? 買うよ、買うよ」と急にタダでもらったら悪いという大人の感覚が甦ってきた。「なに言ってんのよ。あげるわよ、どうせ使わないんだから」と気前よく手渡してくれた。あのとき、ありがとう!と彼女を抱きしめていたら(これじゃ『横浜タラレバ爺』だ、あの頃はまだ40代前半だった)、違う人生だったかも知れない。が、「オリンパス」に目が眩みそんなことみじんも考えず、彼女の気が変わると悪いのでさっさと引き上げた。これでまたオリンパス魂、いやカメラ小僧に火が付いた。OMシリーズとライカとを交互に買うようになった。
だがデジタルカメラが流行、それが主流に変わってくるとカメラ小僧は一気にしぼ萎えた茄子のようになってしまった。デジタルなぁ・・・やたらと女性の裸やヘアーを掲載する週刊誌が食傷気味なのと同様、そう日活ロマンポルノの片桐夕子ちゃんや白川和子さん時代の「簡単には見せません!」的じらしヌードのほうが、好きなのだ。デジタルカメラ、写りゃいいのかよぉ〜と、へそを曲げてしまった。以後オリンパスPEN-Eは貸与品で持ってはいるが、件のiPhone6sで間に合わせている。想像以上に高性能だし、これは。
で前置きが長くなったが、カメラの話になるとやたらと長くなる。ど素人なのに、いやど素人だからなのだろう。かくして今密かにオリンパスペン-F(デジタル)のムック本を注文して、検討に入ったところだ。私の葬儀委員長F木啓孝兄なら明日中に「衝動買い」しているな、きっと。その点、昨今の私は慎重だ。
* 文中で紹介させて戴いた各カメラの写真は、インターネットのクラシック・カメラ販売会社や廉価店の広告の中から引用させて戴いています。自分の愛機(まだ買っていないPEN-Fを除く)は、ロッカーの段ボール箱の中にあり、取り出すのに手間がかかるため使わせて戴きました。ご寛恕下さい。