新しいはじまり / 513

 16日の最終講義が済むと少し気の抜けた日々が始まるのだろうと予測していたが、大いなる勘違いだった。講義と送別会に顔を出してくれたB藝春秋電子書籍編集部のH岡美那子さんから、帰りしなに手提げ袋に入った”おみやげ”を戴いた。中にはバレンタインデーのチョコレートと一緒に分厚いゲラが入っていた。そうだそうだ、3月3日発売の『トイレ探検隊がゆく!』(電子版)の著者校正があったのだ。表紙が中々可愛い。

 花束をかかえて家に帰ると、「あら早かったわね」と午後10時過ぎのご帰還に、ソファにゴロンタしていた家人が驚いた風で、早速大きな2つの花瓶に活けてくれた。書斎に入るとデスクの上にで〜んとゆうパックが置かれていた。中を開くと弓立社(私が経営する出版社)で編集を手伝ってくれいるT井みゆきさんから、3月に出版予定の三国浩晃さんのゲラ、『おひとりさまの備え方 終活、最期まで自分らしく』が入っていた。あっちゃ〜。これもやらなくては。

  17日は気温がぐんぐんうなぎ登りで、春風に誘われて鶴見川河畔までタラタラ自転車で散歩ならぬ散車に出かけた。高田渡さんの『自転車に乗って♫』が好きで、口ずさみながら電動自転車の心地よさを味わっていると思わぬ突風が。なんじゃ〜。土手の上は、暖かいものの風が強すぎて、うまく自転車がこげず、退散退散。早く帰って仕事をしろと言うことかと、新横浜のプリンスぺぺの地下にある「山助」(いつも愛用しているセンター北の鮮魚専門店の姉妹店)で、刺身用に活きのいい鰺を3匹、それと茎わかめを求める。その足で、菊名の「東急ストアー」に立ち寄り、入り口にある「能登屋」でおでんのネタを買い込む。能登屋はJR横浜線大口駅近くの商店街にある練り物専門店で、大磯と鎌倉にある(経営は全く別らしい)「井上蒲鉾」と並んで私の好きな店だ。

  ここのネタだと、私が作っても西早稲田の「志乃ぶ」とまではいかないが、抜群に美味いおでんに仕上がる。汁は日本酒+みりん+水少々+特上の利尻昆布を3枚浸す。2時間ほど経ったら「能登屋」の具と別の鍋でシンまで煮込んだ大根、がんも、焼き豆腐、灰汁抜きを繰り返したこんにゃく、シラタキ、タコ、娘用のウインナーを加えて、コトコト弱火で2時間。その間、ダイニングテーブルでゲラを読みながら、ときどき鍋を覗く。そうそう忘れていた。水を張った大きなボールに茎わかめを入れて塩抜きをする。これを2〜3度繰り返した後、日本酒+みりん+根昆布出汁(液体)+純米酢+すし酢を調合した自家製のお酢に漬け込む。これがいま私のお気に入りのつまみの一つだ。大量に作って冷蔵庫に入れとくと、口寂し時には好いお八つになる。

  18日は朝から昨夜届いた長野「いろは堂」のおやきを電子レンジ600ワットで表1分、裏40秒温め(具があんこやカボチャの場合は、裏は20秒と短いから要注意)、おでんと一緒に食べる。おでんは予想以上に好評で、いつも仕上げに入れていた創味のだし醤油を今回一切使わず、利尻昆布の出汁だけに徹したのが成功の秘訣だったかも。

  夕方までかけて一気にB春のゲラを仕上げる。誤字脱字を数カ所見つけたが、H岡嬢の説明書きでは電子データをプリントしたもので、そういうケースが散見されても電子書籍ではすでに直っているとのこと。そりゃ気が楽だ。一応赤字にしておく。B春の編集者の凄いところは、微に入り細を穿つほど丁寧な説明書きが添えられていることだ。これは最初の担当だったM井・二番目のK俣時代からいつも感心させられていることで、「書き手」を慮るよう教育されているのだろう。週刊誌連載の時の担当者2人も同様だった。昔のように顔を付き合わせることが少なくなった昨今、会った上に説明(注意)書きもあるという念の入れようは凄い、しかもまだ本当に若いのに。

  夜は赤坂見附の改札口で娘と待ち合わせて家人と3人で「はしぐち」に顔を出す。いろいろなお寿司屋さんに行ったが、ここが一番気軽に落ち着いて、つまみも寿司も堪能できる。まぁ開業直後からだから、恐らく25年くらい通っているせいかもしれない。席が8つしかないため予約を取るのが難しく、特に娘を連れて行きやすい土曜日となると2ヶ月待ちだった。誕生会だったが、もう16日も経ってしまった。娘を小学生の頃から知っている女将さんが、会った途端「また大きくなって・・・」と目を細める。横から私が「縮んだら怖いですよ」と茶々を入れて娘に叱られた。「今年はホタテが不漁で、ようやく年が明けてから大きいのが出始めたんですよ」とホタテ大好きの娘にご主人が説明していた。「もう入らない」と言うほど食べて、まだまだ食欲旺盛な65歳を確認できた夜だった。

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