風邪とミカンと梅干しと / 503

 糖尿病を抱えているので、病気になると治りが遅い。まだ少し咳が出るので、自宅近くに電動自転車で買い物に行く程度だ。デコポンとタンカンとキンカンを求めに近くの八百屋へ。故郷杵築(きつき)のデコポンが、3個500円で店先にあった。熊本産は2個480円なのに、何だか安く見られたようで(実際そうなんだが)、可哀想ですぐ買い求めた。愛国心や愛郷心とは無縁だ、というより嫌悪してきたのに不思議なもんだ。年齢のせいかもしれない。遠く離れた横浜の店先に置かれているのを見るとスルーできない。娘が「お父さん、杵築のデコポンも美味しいよ」と気遣ってくれる。本当に美味いのだ!!

 それにしても私も娘もミカン好きで、1年中何かの種類が冷蔵庫に入っている。身体が自然と求めるのは、ミカンの町に産まれ育ったせいだろう。1時期、場所を書くと営業妨害だから明かさないが、「訳ありミカン」というのを何度も買った。第1回目は、そこそこ立派だったが、2回目、3回目と数を重ねていく内に、本当に酷いというか訳がありすぎばかりが届いて、とうとう今期は止めた。代わりに愛媛産にしたら、中々好かった。とはいえ、ミカンは糖尿病には大敵だ。何と言っても果糖の塊なんだから、こっちの方が訳ありだ。  

  ミカン以上に好きなのが梅干しで、贔屓の居酒屋・大倉山のほうろく屋に行くと、カウンターの目の前に梅干しの入った大きなガラス瓶が置かれてある。ご主人のF岡廣さんが漬けた塩味の効いた梅干し(ほうろく梅)で、見ただけで口の中が酸っぱくなる。「お願い」というと夫人のちゃこちゃんが、「5個にしときなさいよ、そんなに食べると身体に悪いんじゃない」と気遣ってくれる。自分で勝手にとると平気で10個は食べてしまうからだ。それほど美味い! 赤坂のもゝでも梅干し(少し甘めで、これはこれで美味い)と卵焼きが、表メニューにはないが私の定番だ。もちろん我が家の冷蔵庫の中も、欠かしたことがない。長きにわたり「ほうろく梅」のお世話になっていた。大学の同僚O野ちゃんことO野直樹さんも小田原の梅祭りに行くと、必ずお土産に買ってきてくれる。日頃から「梅干し、梅干し」と連呼しておこうものだ。

  ここ1年で親しくなった奈良県天理市のY中䂓矩子さんから届く山の幸、とりわけ梅干しも絶品で、小学生の頃、当時まだ7〜80代だった祖母が作っていた梅干しの味がする。祖母は梅雨明けになると、庭になった大量の豊後梅(大分は豊後梅の産地で、たしか県のシンボルの木も花もそうだ)を竿で叩き落とし、黄色くなるまで陰干しして、さらに赤紫蘇で紅色に染めた梅干しを大きな簀の上に広げて再度干したものだ。それを黄色いときや紅色になってからもこっそり頂戴して、見つかると祖母の逆鱗に触れた。怒った祖母は、「灸(やいと)じゃ!!」といって私を柱に縛りつけ、足や腕に線香でお灸を据えた。これは本当に熱かった。梅干しはそれで完成ではなく、今度は1個ずつ紫蘇の葉に巻いて、梅酢に漬け直していたように記憶している。もちろんストレートのものもあった。なんせ手伝ったことがなく、邪魔ばかりしていたのだから間違っていたらゴメンなさい。

  このように筋金入りの梅干し好きなのだが、このところ、ほうろく梅でも、もゝ梅でも、天理梅でも、南高梅でも、群馬梅でも、小田原梅でもなく、こよなく愛しているのが「栄一梅」だ。ここ3ヶ月で3パック頂戴した。いや私がおねだりして、送ってもらっているのだ。「栄一梅」は非売品で、元T京新聞記者のM串栄一さんが、自ら漬け込んだ3種類(紫蘇、塩のみ、小梅)の梅干しのことだ。「毎年大量に漬けるんだよ!」と豪語していたのを聞き逃さなかった。「頂戴!!!ちょうだい!!チョウダイ!」と子どもがお菓子を欲しがるように、おねだりして手に入れた。余りの美味しさに、大事に食べたが5日めに、なくなった。その後気の良いM串兄は、思い出したかのように送ってくれる。この梅干しから出た汁を使って、素麺を食べるのも美味い。礒じまんの「花しいたけ」の品の良い甘みと梅干しの酸味が独特のハーモニーを奏でるのだ。

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コメント

  1. F木 より:

    栄一梅の見事さよ、っていうか雑魚亭の写真アップのウデも上げたな。