書斎の窓から / 588

「窓からローマが見える」という池田満寿夫さんの小説と映画が好きだった。映画に出てきたコケティッシュな若い女性に惹かれたからかも知れない。以来、ぼんやり窓の外の”ローマ”を眺めることが多い。そう言えば「書斎の窓」って、今も発行されているのだろうか。確か有斐閣が毎月だか発行していた小冊子で、書店のレジの横に積み上げてただで貰えていた。(凄い!いまグーグルで「書斎の窓 有斐閣」と検索したら、奇数月に無料で発行していた)

▼私の書斎は、広さ8畳ほど。その中の6畳分に机、本棚、テレビ、オーディオ、DVD棚からベッドまで持ち込んでいるので、椅子に座っているだけでほとんど何でも出来てしまう。奥2畳にクローゼットが付いていて、そちら側から抜けるとトイレ、その先に風呂、手前を曲がると玄関に出られるから、深夜だろうが早朝だろうが出入りは自由自在だ。この空間が私の唯一の思索や読書、執筆、時には飲食の世界でもある。愉しみは向かいのK北保育園の園児たちの声を聞くことと、既に少し書いたけれど野鳥のさえずり、餌を食べる様子を眺めることだ。

深夜2時すぎの飲酒(韓流観ながら 吉高ちゃんのトリスハイボール で  ツマミは鯖の缶詰と梅干など)

▼ 書斎の窓から2メートル足らずのところに塀が有り、少し高台になっているから一応外界とは遮られている。その先、車一台通れるほどの道路を挟んで保育園がある。一日家にいるとき、早朝から夜7時頃まで園児達の声がよく聞こえてくる。あのはしゃいだ声や笑い声、泣き叫ぶ声を聞くのが好きで、心癒やされる。

▼以前杉並区だったか、住民が保育園建設反対を訴えている記事を読んだ記憶があるが、心がささくれだった人たちだなと気の毒に思った。「パパ行ってらっしゃい」とハッキリした元気な響き、「ママ、わー」と声にならない嗚咽、子ども達の声の一つ一つに、彼らのその日の生活を想像してみるのが愉しい。「夕べはよく眠れたんだな」「お父さんとお母さんが喧嘩したのかな」「ゆっくりご飯食べてきたのかな」圧巻は夕方の園児同士の別れの挨拶だ。「あいちゃ〜ん、バ〜イバ〜イ」「あいちゃんのおかあさんバ〜イバ〜イ」一足早く迎えが来て、先に帰る子どもの些か勝ち誇ったような力の入った声を聞いていると、会ったこともない子どもの顔が目に浮かぶ。私の娘は0歳児保育だったから6年間、迎えはいつも夜7時ギリギリ、常に最終の3人組だった。悔しかったかも知れない。

 ▼小鳥のさえずりは日の出とともに始まる。ベッドの頭が窓側なので、毎朝野鳥の声で起こされる。というのも、塀と書斎の窓との間に、野鳥の餌箱を3箇所取り付けたことは既に書いた。その横にある樹木が、この時期赤い実をつけるため、そちらにも鳥たちが集まってくる。もう慣れたモノで、餌箱を取り付けた当初は「お父さん、遊びに来てくれると好いね」とちょっと横から眺めるだけだった娘も、「あぁ来てる来てる」とゆっくり観察していくようになった。野鳥は敏感だが、この辺りの鳥は人慣れしているのか書斎の窓を開けっ放しにしていても平気で寄ってくる。ぼんやり「窓からローマ」ではなく、野鳥を眺める時間が増えてきた。小笠原島はどうだろう、最初のバンガローは山の中にありそうだから、いまからワクワクしている。

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