渡航の荷造りは全て1人でやった。東宝のサラリーマン映画なんかを観ていると、司葉子さんが小林桂樹さんの出張の荷造りをしている場面を見かけるが、振り返ると今も以前も家人にしてもらったことがない気がする。彼女の方が甲斐甲斐しかったのは、女の矜持がそうさせたのか?国内旅行用のキャリーバッグにする予定だったが、30日分の荷物となるというと収まり切らず、迷った挙句ベタベタシールを貼った海外取材の時に買ったものをタンスの隅からひっぱり出した。これなら余裕のよっちゃん。海外取材の時に助かったのは、物干し用の紐、洗濯バサミ、ガムテープ、蚊取り線香だった。今回は蚊取りベープに変更。運動靴も余分に2足入れた。沖縄と同じ経度だから暑さも同じと考えて、Tシャツとショートパンツを中心に、雨の日が続いた場合を考えて、ジャンパーも1枚入れておく。
▼兎に角私の場合は、糖尿病と高血圧のクスリさえ30日分の以上持っていれば、あとは金とカードでどうにかなるはずだが、そこは小笠原だ。人口2500人余りの島だけにカードは期待薄らしい。久しぶりにゆうちょ銀行カードを持参したのも、地方取材のときは、これが頼りだった経験からだ。N協会を辞めてからは、ほとんど使うことがなくなっていた。
▼立つ鳥跡を濁さずとばかり、当日の朝になって書斎の大掃除をした。アホやなぁ。既に紹介した私の机の上は、アナーキー状態。これを兎に角、デスクの板の部分が半分以上は見えるようにするのが目標だ。午前8時を回ってだんだん見え始めた。折角だから机の下も整理する。羽鳥さんのテレビを横目で見ながら黙々と手を動かす、ようやく綺麗になった。(写真を撮るのを忘れた)
▼それにしても大きすぎる。重い。移動するのが大変だ。普段は、「あんな大きなにもつもって」と冷ややかに見がちだが、人間現金なもので眉をしかめるエスカレーターにキャリーバッグの“一緒乗せ”を、ついつい私もやってしまう。バカ〜。社会性が低いなぁ。とはいえ、お陰で午前9時11分の京浜東北線大宮行きにギリギリ間に合った。というのも横浜駅は中央改札口から入ると4番線ホームに行くのは階段しかない。あるのは下りのエスカレーターのみだ。駅員さんに聞くと、「一端外に出て、逆の入り口から入るとエレベーターがあります」なんダァ〜。かくしてドアが閉まる直前に滑り込んだ。
▼一難去ってまた一難。午前9時45分に到着したJR浜松町駅の北口出口には、エレベーターもエスカレーターもない。「うーん、うーん」と汗をかきながら、しかも突然の椎間板狭窄症の痛みが襲って来た。ここを踏ん張ってどうにか平地に。あとは10分ほど大きなキャリーバッグを引っ張って小笠原海運のある窓口へ。定刻主義者の私は2分前に窓口カウンターへ到着。当たり前かもしれないが、小笠原海運の窓口は、電話でのチケット予約時でも、今日の対応も実に丁寧で、サービス業に徹底ている。70代後半と思しきおばあちゃんが、「私は何度も来てるのよ」を繰り返しても、「ありがとうございます。今回はどれくらいの滞在ですか?」と優しく語りかける。1週間に1回の航路だからといって仕舞えば、身もふたもない。人間の最終到達点は、「他人に優しく対応できるか否かだ」と65年生きて来て気がついた。