「方丈庭」に伸びたゴーヤの蔓を眺めながら、煙草を燻らせているとつい先月までの文春騒動を思い出す。
木俣正剛が、伝聞ながら、会長職に固執する社長に退任を迫った時の科白が頭に浮かび、キマやんの無念を思うと知らず識らず涙が出て止まらない。「俺も辞めるから、あなたも辞めよう」これぞ出版人、出版ジャーナリスト。悔しくもあり、キマやんの侠気(おとこぎ)に改めて潔さを感じている。
子どもの頃、右翼の大物松本明重氏が、京都政界のドンだった父親の秋水さんの所を訪ねて来ては、キマやんをおんぶしていたと聞いたことがある。私は右翼とは思想的に真逆の人間だが、父上が正統派の右翼だったという彼が育った環境からも、木俣正剛の生き方は清々しい。
木俣正剛は、好漢(おとこ)でござる。地位に恋々としない。出来るようで出来ない身の処し方である。生まれて来たからには、ここぞというときは、かくありたいものだ。
28年前に生涯の盟友を失い、いままた30年来の親しき友松井清人を私は失った。65歳を過ぎて、こんな日が来るとは、嗚呼。