藤岡雅さんの『保身』を読んで思い出したこと(1322)

この2週間で読んだもう1冊は、藤岡雅さんの『保身』(角川書店Kindle版)だ。これは積水ハウスの地面師詐欺、社内クーデーターをテーマにした作品だ。藤岡さんは、私が東京経済大学大学院で「ルポルタージュ論」や「テレビ報道論」などを教えていた時の教え子で、東経大以外でも中央や青山学院でも「ジャーナリズム論」などを教えていたのだが、彼は記者向き、マスメディア向きという点で出色だった。彼から「どこかマスコミでバイトはないですかね?」と尋ねられ、NHKだとシフト制だから自由が効かないため、雑誌編集プロダクション社長に紹介した。程なくして彼は「週刊現代」記者になり、時々「これ書いたんですよ」と無署名の記事を教えてくれて、私も大いに喜んだ。あれから15年は経つだろうか。

積水ハウス地面師詐欺事件は、2017年、東京・西五反田の海喜館の土地をめぐって地面師グループに、一部上場の不動産専門企業が55億円だまし取られたものだが、この新聞記事やニュースを見た多くの人は、「あの積水ハウスが地面師詐欺に引っかかるなんて」と驚きの感想を持ったはずだ。そしてこれにまつわる積水ハウス会長、社長の確執・暗闘が、微に入り細を穿つように綴られている。「へぇ〜そういう会社だったのか」と最近はこの手の事件物を読むのはM功さんの作品ぐらいしかなく、あとはT井健一さんの政治モノぐらいになってしまった。若手の有望株の本だけに、ぜひ買って読んで欲しい。この本で知ったのだが、東京都市大学時代の同僚で、喫煙仲間だったW井史郎先生が社外取締役にいるとは驚きだった。2人でよくキャンパスの端っこにある喫煙所で、どこでも吸えなくなった現状を嘆いたものだ。時々S口宏サンんの「サンデーモーニング」でお姿を拝見しているが。

私はこのところKindleで購読することが多くなった。薄いし、持ち運びに便利だし、老眼鏡が必要な年齢には強い味方だ。同年輩には、こちらもお薦めだ。

<積水ハウス事件の舞台となった海喜館のとち(SNSから引用)>

それにしても久しぶりに「地面師」という言葉を聞いた。地面師というのは、<他人の所有地を利用して詐欺をはたらく人。*東京日日新聞‐明治二一年〔1888〕六月一〇日「昨年四月の末に至り、此地面師の時事に感ずることやありけん」>(日本国語大辞典)とあるくらいだから、相当古い詐欺の手口だ。

私にとっての「地面師」という言葉は、鹿児島のサツまわり時代に、捜査2課次席の故 穂原國芳さんに教わったのが最初だった。S林復興、K島土地をめぐる不動産事件で、夜回りに行った時、「小俣(おまっ)どん、地面師おば知っとるかな」と焼酎を酌み交わしながら、突然投げかけられた言葉だった。「いやぁ何ですか、そのジメンシって❓」と訊き返した。

<1982年〜84年まで警視庁5方面、捜査2課4課を担当していた>

1983年に警視庁捜査2課を担当したとき、地面師詐欺について書かれた『警察時報』だったか雑誌を読んで、執筆者が「元捜査2課管理官(理事官だったかもしれない)」の肩書きだったので、警視庁にあった古いヤサ帳で筆者の刑事時代の住所を見つけて、確か田無だったかと思うが尋ねて行ったことがある。その人はパチンコ会社だか遊技協会の顧問をしていて、「えっ私の寄稿を読んだの」と面白がって地面師事件の具体的ケースを説明をしてくれたり、現役の2課の刑事を「私の名前を出せば会ってくれるから」と住所や電話番号まで教えてくれた。私以前に彼のところを回っていたのは、17年先輩の若かりし頃のS井治盛さんだった。それを知ったのは、しばらくしてS 井さんに会った時に、「小俣はあんな辞めた人のところまで行っているのか」と訊かれて、逆にびっくりした記憶がある。

藤岡さんにとって、これが最初の作品だが、これから続々と発表していくことだろう。単著を上梓するのは、格段の喜びがあり、生きがいにもなる。私の分まで頑張って欲しいですとせつに願っている。

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